町のはずれに、
生きることを諦めた猫がいました。
雨から逃げることも、
お腹がすいたと鳴くことも、
もう、やめていました。
猫は死にたかったのではありません。
ただ、これ以上、
痛い思いをしたくなかったのです。
ある夜、パン屋のおばあさんが
猫を見つけました。
「生きなさい」とは言いませんでした。
小さな箱と、やわらかな布。
お水と、少しのごはんを置いて、
「今夜だけ、ここで眠っていいよ」
そう言いました。
猫は思いました。
ずいぶん、おせっかいな人間だ。
でも、今夜だけなら——と、
ごはんをひと口だけ食べました。
次の夜も、
おばあさんは同じことを言いました。
「今夜だけ、ここにいていいよ」
猫はまた、ひと口食べました。
そんな今夜だけが
いくつも重なった朝。
窓から入った光が、
床の上で小さく揺れていました。
猫は、思わず前足を伸ばしました。
そのとき気づいたのです。
この世界にはまだ、
触れてみたいものが
ひとつだけ残っていたことに。
おばあさんは猫を
「きょう」と名づけました。
「あした」では重すぎるし、
「希望」では少しまぶしすぎたから。
きょう、という猫は、
今日だけを何度も生きました。
生きることは、
立派な決意ではないのかもしれません。
誰かが差し出してくれた
あたたかな『今日』を、
断りきれずに受け取ること。
もし、もう何も頑張れない夜がきたら、
明日の約束なんてしなくていい。
雨の当たらない場所で、
今夜だけ、眠ってください。
朝の光は案外しつこく、
あなたの前足に触れようと
待っているかもしれません。🐈⬛💖
たいそうなこと考えなくていいの。
いまこの時を大切にしてね。
🤝
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