一軒の家をタイムマシンにして、人間の暮らしを探検する、大きな図鑑があったら面白い。
玄関を開ければ、鍵の歴史。
台所へ行けば、火と食事の歴史。
お風呂には、人類が清潔を手に入れるまでの長い苦労。
ベッドには、夜を安心して眠りたいという、何千年分もの願いが敷かれている。
そう考えると、家は小さな博物館だ。
しかも展示品に触っていい。座っていい。冷蔵庫のプリンだけは、持ち主の許可がいる。
私は歴史とは、お城や戦争や偉い人の名前を覚えることだと思っていた。
けれど、本当の歴史はもっと小さいのかもしれない。
寒い夜に、誰かが家族へ毛布を掛けたこと。
こぼれにくい器を考えたこと。
暗闇が怖い子どものために、明かりを残したこと。
人間の暮らしを少しずつ良くしてきたのは、名前の残らなかった人たちの、小さな愛だった。
だから私も、やってみようと思う。
なぜ窓は四角いのか。
なぜ椅子には背もたれがあるのか。
なぜお気に入りのカップで飲むと、同じお茶が少しおいしく感じるのか。
建築、料理、道具、植物、布、灯り。
詳しい人に会って話を聞きながら、一軒の家から人類を旅する図鑑をつくるのもいい。
いつか山の中でも続けられる仕事になるかもしれない。
観察して、尋ねて、書く。
必要なのは、大きな事務所ではなく、好奇心と一杯のお茶である。
もっとも壮大な人類史の調査は、まず冷蔵庫の奥に眠る、正体不明のタッパーから始まりそうだ。
あれが先週の煮物なのか、
すでに新しい文明なのか。
開けるには、考古学者より勇気がいる。
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まだ居間だ
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